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東京地方裁判所 平成7年(ワ)505号 判決

原告

桜田一男

ほか一名

被告

根本久雄

主文

一  被告は、原告正木朋子に対し、金一五万二六八〇円及びこれに対する、平成六年六月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告正木朋子のその余の請求を棄却する。

三  原告桜田一男の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告正木朋子に生じた費用の一〇分の一と被告に生じた費用の一〇分の一を被告の負担とし、原告正木朋子に生じたその余の費用と被告に生じた費用の一〇分の四を原告正木朋子の負担とし、被告に生じたその余の費用と原告桜田一男に生じた費用を原告桜田一男の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告桜田一男(以下「原告桜田」という。)に対し金八二万円及び同正木朋子(以下「原告正木」という。)に対し金九八万四八九八円並びにこれらに対する平成六年六月二二日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

第二当事者の主張

一  原告ら

1  本件事故の発生

(一) 事故日時 平成六年六月二二日午後一〇時ころ

(二) 事故現場 横浜市中区新山下三丁目三番地新山下第一料金所上り〇・九キロポスト

(三) 原告車 普通乗用自動車(足立五四せ五一三九)

運転者 原告正木

(四) 被告車 普通乗用自動車(足立五三も九二七七)

運転者 被告

(五) 事故態様 原告正木が原告車を運転し、原告桜田が原告車の助手席に乗車して、首都高速道路に進入するため新山下第一料金所手前で停止中、後方から進行してきた被告運転の被告車が原告車に追突した。

2  原告らの傷害と治療状況

(一) 原告桜田

原告桜田は、本件事故によつて、頸椎捻挫の傷害を負い、平成六年六月二三日から同年一一月二日まで通院して治療を受けた(実通院日数三一日)。

(二) 原告正木

原告正木は、本件事故によつて、頸椎捻挫の傷害を負い、平成六年六月二三日から同年一一月二日まで通院して治療を受けた(実通院日数三九日)。

3  責任原因

被告は、料金所で料金を支払うため停止中の原告車の後方に追従しようとしたのであるから、前方を注視して、一時停止、または、徐行しながら、原告車との距離を調整して被告車を進行させるべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠つて進行した過失によつて本件事故を起こしたのであるから、民法七〇九条により、原告らに生じた損害を賠償する責任を負う。

4  損害額

(一) 原告桜田 八二万円

(1) 慰謝料 六七万円

(2) 治療関係費 支払い済み

(3) 弁護士費用 一五万円

(4) 合計 八二万円

(二) 原告正木 九八万四八九八円

(1) 休業損害 一六万四八九八円

原告は、エアロビクスのインストラクターとして稼働する傍ら、婦人化粧品の訪問販売にも従事しており、年間合計六〇一万八八一二円の収入を得ていた。原告正木は、本件事故によつて、一〇日間就業できなかつたので、その間の休業損害は、右の年収の一〇日分に当たる一六万四八九八円である。

(2) 慰謝料 六七万円

(3) 治療関係費 支払い済み

(4) 弁護士費用 一五万円

(5) 合計 九八万四八九八円

5  既払金について

原告らが、平成六年六月三〇日に、被告から各一〇万円の支払いを受けた事実は認めるが、これらは、治療費として受領したものである。治療費は、本訴においては、支払い済みとして請求していないので、右一〇万円は、本訴における損害額の弁済として充当されるべきではない。

二  被告

1  原告の受傷について

被告車が、原告ら主張の日時、場所で、原告車に追突した事実、被告に原告ら主張の過失がある事実は認めるが、原告らに頸椎捻挫の傷害が生じた事実は否認する。本件事故における追突の程度は極めて軽微で、原告車、被告車の双方に損傷はなかつたものであり、原告らには傷害は生じていない。

2  既払金

被告は、原告ら各自に対し、平成六年六月三〇日に、本件交通事故に基づく損害賠償債務の弁済として、各一〇万円ずつを弁済済みである。

第三争点に対する判断

一  本件事故における衝突の程度

1  争いのない事実

本件日時、場所において、原告正木が原告車を運転し、原告桜田が原告車の助手席に乗車して、首都高速道路に進入するため新山下第一料金所手前で停止中、被告が前方注視を欠いたため、後方から進行してきた被告運転の被告車が原告車に追突した事実は、当事者間に争いがない。

2  実況見分調書の記載

本件事故直後の平成六年六月二二日午後一〇時三〇分ころから、原告正木と被告が立会つて、実況見分が実施されたが、その際に、原告正木と被告が、原告車と被告車が衝突後、原告車が六〇センチメートル前方に移動している旨、指示、説明した旨が記載されている(甲八の一及び二)。

これによれば、原告車は、被告車に追突され、前方に六〇センチメートル動いたことが認められる。

3  被告の供述

(一) 被告は、被告本人尋問期日において、本件事故の状況について、「本件事故直前に、前方に原告車が停止していることに、気がついていた。停止した後、料金所で払う金を取るため運転席の右側にある料金ボツクスを見たところ、ブレーキペダルを少し緩めたため、被告車が前方に動き、気がつくと原告車が三〇センチメートルほどに迫つていた。あわててブレーキを踏んだが原告車に追突してしまつた。現場は、緩い上り坂になつており、前に進んだと言つても、人が歩く速度よりも遅い速度だつたと思うが、速度計は見ていない。甲八の一及び二の実況見分調書では、原告車に衝突後、原告車が六〇センチメートル前方に移動したことになつているが、これは違うと思う。追突したといつても、こつんと当たつた程度だつたので、押し出されたとしても一〇ないし二〇センチメートル程度のはずである。」と供述している。

(二) しかしながら、被告の供述する被告車の速度は推測に過ぎず、正確な速度ではないこと、被告の供述は、追突した側の被告車は強い衝撃を感じなかつたので、あの程度の衝撃で怪我が生じるはずがないと推測で供述しているだけであり、これも客観的なものではないこと、原告車が押し出されたとしても一〇ないし二〇センチメートル程度のはずであるとの供述もまた推測に過ぎないこと、かえつて、被告自身が立ち会つて作成された実況見分調書では、原告車が六〇センチメートル移動した旨の指示説明がなされているが、この点について、合理的な説明を行つていないことから見ると、被告の供述中、右の部分は採用できない。

4  以上によれば、原告車には、プロレスラーで体格のよい原告桜田と、成人の女性である原告正木が乗車しており、かつ、原告車は普通乗用車であることから見ても、原告車は相当程度の重量であつたと認められるところ、このような原告車が、六〇センチメートル前方に押し出される程度の衝撃が、少なくとも、原告車に加えられたことが認められ、かかる衝撃の程度から見れば、双方車両の破損の程度が軽微であることを考慮しても、なお、原告車に乗車していた原告らに頸椎捻挫の傷害が生じても何ら不合理ではないと認められる。

二  傷害の有無及び程度

1  原告正木

(一) 甲九、一〇、原告正木及び同桜田各本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告正木は、本件事故当日は病院で診察を受けず、翌日の六月二三日、原告桜田の仕事先に近い横浜新都市脳神経外科病院(以下「新都市病院」という。)で診察を受けたこと、同病院の、X線検査の結果で、腰部に生理的な前湾が認められたが、頸部には異常は認められず、頸部痛を訴えたため、頸椎捻挫と診断されたこと、その後、六月二五日から、自宅に近い医療法人社団江東病院(以下「江東病院」という。)で、リハビリ目的で治療を受けたこと、同病院での診察でも、X線検査の結果、生理的な腰部前湾が認められたこと、原告正木は、めまいは残つていると訴えているものの、事故当初は吐き気があつたが、当日は吐き気はなく、手指のしびれもなくなつたと訴え、同病院でも頸椎捻挫と診断されていること、江東病院の診療録の六月二九日の欄には、「朝起きると後頭部が重い感じがするが、手に異常はなく、伸展、屈曲も正常である」旨が記載され、医師の判断として、「来週から仕事可」と記載されており、六月二九日は水曜日であるので、原告正木は、翌週の月曜日である七月四日からは稼働が可能であつたと認められること(なお、原告正木が、休業損害を請求している期間は、本件事故後一〇日間であるから、七月一日までの分である)、その後、原告正木は、同年七月一日、四日、五日と通院したが、頸部牽引と温熱療法が実施されているだけであり、同月六日の欄には、「頸部が張つている」と訴えている記載があるものの、「臨床的に見て正常」と記載されており、同日には正常な状態に戻つていたと認められること、原告正木は、その後も通院していたが、頸部牽引と温熱療法が実施されているだけであり、同年一一月二日で治療中止となつていることが認められる。

(二) 以上によれば、他覚的所見はないものの、原告正木は、本件事故の翌日には頸部痛を訴え、三、四日後にも吐き気も訴えており、新都市病院と江東病院の両病院の医師がいずれも頸椎捻挫と診断しているのであり、本件事故の衝突の際の衝撃が、頸椎捻挫の傷害の発生自体を否定するような軽微なものではないことに鑑みると、原告正木は、本件事故によつて、頸椎捻挫の傷害を負つたものと認めるのが相当である。

他方、本件事故の衝突の際の衝撃の程度は、長期間の治療を必要とする傷害を発生させるような重大なものとも認められず、長期間の秘訴は、腰部生理的前湾に基づくものである疑いが否定できないところであり、原告正木の通院の経過を見ると、七月二日からは稼働が可能であつたと認められることや同月六日には正常な状態に戻つていたと認められることを総合すると、原告正木の頸椎捻挫の傷害は、受傷後一五日目の平成六年七月六日には治癒したものと認めるのが相当である。

2  原告桜田

(一) 甲九、一〇、乙一六の一ないし五、一七の一ないし三、原告正木及び原告桜田各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告桜田も、本件事故当日は病院で診察を受けず、事故翌日に、新都市病院で診察を受けたこと、新都市病院では、頸部をX線で検査したが、その結果、以前よりの変化は認められなかつたこと、具体的な内容は不明であるが、上腕と前腕に症状が認められたため、頸椎捻挫と診断されたこと、その後、原告桜田は、新都市病院には通院せず、同月二五日から、江東病院に通院したこと、同病院では、頸部痛、右示指先端のしびれ感は訴えるものの、局所所見は陰性で、過伸展圧迫検査法、椎間板圧迫検査法でも異常がなく、X線検査の結果、第五、第六頸椎の間に骨棘があるが、椎間板には異常がないと診察され、同病院でも頸椎捻挫と診断されたこと、その後、原告桜田は、同病院に通院したが、七月六日に右第二指にしびれ感を訴えたものの、八月一五日まで、カルテ上、特に愁訴は記載されておらず、頸部牽引と温熱療法が実施されているだけであり、同日には頸部痛、運動時疼痛ありとの訴えはあつたが、頸椎骨棘突起の圧痛はないと診断されていること、原告桜田は、同年一一月二日まで江東病院に通院していること、原告桜田は、プロレスラーとして活動していること、原告桜田は、本件事故後、一日もプロレスの仕事を休んでおらず、証拠上明確ではないものの、本件事故後、間もなくのころからプロレスの仕事を続けていたこと、江東病院に通院中で、かつ、同日の診療録には、運動痛があると記載されている八月一五日には、プロレスの仕事で海外に渡航していること、他にも、通院期間中に、プロレスの仕事で海外に渡航していることが認められる。

(二) ところで、江東病院のカルテの六月二五日の欄には、「第五、第六頸椎の間に骨棘あり」と記載されており、江東病院の初診時の六月二五日に、頸部に骨棘の症状があつたことが認められるが、江東病院は、本件事故後に初めて通院を始めたと認められるので、右骨棘が、本件事故によつて生じたものであるかは、右のカルテの記載からだけでは明らかではない。他方、新都市病院については、カルテの記載を見ても、原告桜田は、本件事故前から通院していたことが認められるところ、新都市病院のカルテの初診時の六月二三日の欄には、頸部をX線で検査したが、以前よりの変化はない旨が記載されており、これらを総合すると、江東病院で診断された第五、第六頸椎の間の骨棘は、本件事故によつて生じたものではなく、本件事故前から生じていたものであると認められる。

原告桜田は、プロレスラーとして活動しており、その職業柄、肉体を鍛えているのみならず、職業上、頸部への受傷も多いと考えられ、右のとおり、原告桜田には、頸部に既往症が認められることに鑑みれば、新都市病院において、原告桜田が上腕と前腕について訴えた症状も、その後、江東病院で愁訴し、治療を続けていた症状も、原告桜田が、本件事故前から有していた既往症の症状である疑いが否定できない。

しかも、本件事故による衝撃の程度は、頸部捻挫が生じても不合理ではない程度ではあるものの、万人が頸椎捻挫の傷害を生じうる程度に重大なものとは認められない。したがつて、女性である原告正木には、頸椎捻挫の傷害が生じうるとしても、プロレスラーとして活動し、その職業柄、肉体、殊に頸部を鍛えていると認められる原告桜田に、原告正木と同様に頸椎捻挫の傷害を生じるかは、疑問が残るところである。

(三) 以上、本件事故の衝撃の程度、原告桜田の診察の経過を総合すれば、原告桜田に頸椎捻挫の傷害が生じたか、極めて強い疑問が残る。のみならず、仮に、原告桜田に頸椎捻挫の傷害が生じたとしても、原告正木の症状と比較すると、その程度は、せいぜい、受傷後一週間を経た同年六月末ころまでには、格別の治療もなく治癒する程度のものであつたと認めるのが相当である。

第四損害額の算定

一  原告桜田

1  前記のとおり、原告桜田が本件事故によつて頸椎捻挫の生じたか疑問が残るが、仮に、原告桜田に右傷害が生じたとしても、原告桜田の損害は左記のとおりであり、既に支払い済みと認められるので、いずれにしても、原告桜田の請求は理由がない。

2(一)  慰謝料 五万円

原告の傷害の程度、原告が治癒までに要した通院期間、その他、本件における諸事情を総合すると、本件における慰謝料は五万円と認めるのが相当である。

(二)  既払金

(1) 被告が、平成六年六月三〇日に、原告桜田に対し一〇万円を支払つた事実は当事者間に争いがない。

(2) 右一〇万円については、支払われた時期、金額を考えると、通常は、第一義的には治療費に充当されるとしても、名目を限定するものではなく、これを超える部分は、他の損害の弁済に充当する趣旨で支払われるものと経験則上認められ、本件の場合に、右の一〇万円が、右の意味を超えて、格別に、治療費のみに充当する趣旨で支払われたものと認めるに足りる証拠はなく、右認定に反する原告桜田の本人尋問中の供述部分は採用できない。

(3) そこで、原告桜田の治療費等であるが、前記認定のとおり、相当な治療期間として認められるのは、せいぜい平成六年六月末までの間と認められ、証拠上(乙六の一及び二、弁論の全趣旨)、その間の治療費及び文書費と認められるのは合計二万四九四〇円である。とすると、原告桜田の損害額は、右の治療費等と慰謝料を合わせても七万四九四〇円であるから、原告桜田の損害は支払い済みである。

二  原告正木

1  休業損害 四万一四四〇円

(一) 甲一三及び原告正木本人尋問の結果によれば、原告正木は、本件事故当時、訴外株式会社キツツウエルネス(以下「訴外会社」という。)においてエアロビクスのインストラクターとして稼働し、収入を得ていた一方で、婦人化粧品の訪問販売も行い収入を得ていたことが認められる。

ところで、原告正木は、本人尋問期日において、エアロビクスのインストラクターの仕事と婦人化粧品の訪問販売を一〇日間休業したと供述しているところ、乙四、一三及び一四によれば、原告正木のエアロビクスのインストラクターとしての収入が減少しているようには伺えず、原告正木が、本人尋問期日に供述するように、エアロビクスのインストラクターの仕事を休業していたか疑問が残らないではない。しかしながら、本件事故によつて原告正木が受けた傷害の程度を考えると、エアロビクスのインストラクターの仕事は、その性格上、休業の必要があつたと認められるので、エアロビクスのインストラクターの仕事は、一〇日間休業したと認められる。

他方、原告正木の傷害の程度を考えると、婦人化粧品の訪問販売の仕事についてまで休業が必要であつたとは認め難いところ、乙一五の一ないし三によれば、本件事故の前後を通じて、原告正木の婦人化粧品販売の収入が減少していないことが認められるので、原告正木の前記供述をしても、原告正木が、婦人化粧品の訪問販売の仕事を休業したとは認められず、他に、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

したがつて、本件と相当因果関係の認められる休業損害は、エアロビクスのインストラクターを一〇日間休業した損害であると認められる。

(二) 前記のとおり、本件によつて本件事故によつてエアロビクスのインストラクターを休業したのは、平成六年六月二二日から同年七月一日までの一〇日間である。ところで、乙一一によれば、原告正木は、訴外会社においては、レツスンごとの賃金制であり、その賃金は、四五分枠が五一五〇円、六〇分枠が五三九〇円であること、原告正木は、火曜日には四五分枠を二回、木曜日には四五分枠を二回、土曜日には六〇分枠を一回、四五分枠を一回、それぞれ受け持つていたことが認められる。

平成六年六月二三日は木曜日であり、同年七月一日は金曜日であるので、その間にエアロビクスのインストラクターを休業したのは、四日間であり、その間、四五分枠を七回、六〇分枠を一回休業したと認められる。したがつて、原告の休業損害は、右の五一五〇円に七を乗じた三万六〇五〇円と、五三九〇円に一を乗じた五三九〇円との合計四万一四四〇円と認められる。

なお、原告正木は、エアロビクスのインストラクターとして、年間三〇七万九五七二円、若しくは、二九三万九二四〇円の収入を得ていたと主張するが、乙四によれば、原告が平成五年度にエアロビクスのインストラクターとして得た収入は、一四八万三二〇〇円であり、他にも、原告正木が、エアロビクスのインストラクターとして、年間三〇七万九五七二円、若しくは、二九三万九二四〇円の収入を得ていたと認めるに足りる証拠はない。

2  慰謝料 一〇万円

原告の傷害の程度、原告が治癒までに要した通院期間、その他、本件における諸事情を総合すると、本件における慰謝料は一〇万円と認めるのが相当である。

3  合計 一四万一四四〇円

4  既払金 六万八七六〇円

(一) 被告が、平成六年六月三〇日に、原告正木に対し、一〇万円を支払つた事実は当事者間に争いがない。

(二) 前記のとおり、原告正木に支払われた右一〇万円は、単に治療費として支払われたものではなく、損害の内金として支払われたものと認められる。そして、前記認定のとおり、原告正木の相当な治療期間は平成六年七月六日までの間と認められるところ、証拠上(乙七の一ないし六、弁論の全趣旨)、その間の治療費及び文書費は三万一二四〇円と認められる。

したがつて、被告から原告正木に支払われた一〇万円から、右の三万一二四〇円を控除した六万八七六〇円が本件において既払金として控除すべきである。

5  損害残額 七万二六八〇円

6  弁護士費用 八万円

本件訴訟の難易度、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は金八万円が相当であると認められる。

7  合計 一五万二六八〇円

第五結論

以上のとおり、原告正木の請求は、被告に対して、金一五万二六八〇円及びこれに対する本件事故日である平成六年六月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がなく、原告桜田の請求は理由がない。

(裁判官 堺充廣)

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